もちもちした犬

おもに日記のようなものを書きます。

めしと思い出①

一般に、人間は30近くにもなると食の好みも変わるし、おいしいものもたくさん知るようになる。しかし、自分のように大学に10年もいるような(しかも使える金も学部生とたいして変わらない、あるいはそれより少ないかもしれない)人間は別である。

 

きみたちが「さよなら京都*1」したあとも 私はずっとここにいました

 

京大周辺の思い入れのある店についての雑文を書きとめることにする。京都を離れる前にはいつも、大学周辺のことが恋しくなるものだ。①としたが、続くかはわからない。

昔話をする人間は嫌われる。しかし前に進むためにはこういう時間も必要だ。

 

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とにもかくにも「おくだ」である。

おくだは北部キャンパスの近くのとんかつ屋である。以前は「ケニア」の横にあり、『渡る世間は鬼ばかり』のセットのようなカウンターと、テーブルふたつの座敷席があった渋い店舗だった。現在は改装工事のためにそのむかいの仮店舗で営業している。移転のせいか、いくつかのメニューが消えた気もする。しかし営業してくれているのは本当にありがたい。

おくだのみぞれ

学部生のころ、突然店主が亡くなられた。ショックであった。現在はおそらくお弟子さんが継がれたようである。味もほぼ変わらない(ように思う)。

メニューや店のインスタ*2に登場する豚のかわいいイラストは、おばさんの手によるものだろうか。ずっと元気でいてもらいたい。

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さて、おくだは、まだ未成年であった自分のとんかつ観を大きく塗り替えた。どんなとんかつを食べても、おくだというマスターピースが基準となってしまっている。

分厚くも柔らかい肉、サクッとしつつも油っこさをあまり感じさせない衣。こんなにうまいとんかつが存在するのか、と驚いたものである。さらに、当時は1000円を切っていたこともありコスパも高かった。今は値上げして1150円程度であるが、それでも値段以上の価値がある。デブラーメンやチェーン店のめしに1000円出すより、繊細でいてダイナミックなおくだのとんかつを食うべきである。

 

とはいえ、もちろん思い出補正も否定できないし、舌の肥えた諸君に言わせればもっとうまいとんかつはあるのかもしれない(あれば奢ってもらいたいものだ)。しかし、これほどのクオリティのものを学生でも食べられる値段で出す店は偉大だ。

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おくだには、分厚くて値段もそれなりに高いジャンボロースかつというメニューがある。過去にはこれと同じくらいの値段のビーフカツもあった。こちらは、最近よく見かけるレアで薄い牛カツではなく、とんかつ同様しっかり揚げた肉厚のものである。高いとはいえ、どちらも2000円を切るのでかなり良心的である。

これらのメニューは、何かめでたいことがあった日に食べようと思っていたが、結局どちらも1、2回しか食べたことがない。めでたい日などそうそうなかったというわけだ。

どういう機会だったかも忘れた。新人戦優勝、1部リーグ昇格、院試合格とかそういうのにかこつけて食べたような気がする。ただ、とてつもなくうまかったという記憶だけがある。

 

昔は最もコスパの高いであろう上かつ丼を食べていたが、味覚が多少は洗練されたので、最近ではみぞれや練り梅をよく食べている。滋味。

ただ、思い返してみると、とんかつ以外をほぼ注文していない。食べたことのあるのは、最近の穴子かつ丼、冬のカキフライ定食くらいかもしれない。

レギュラーメニューには、かぼちゃコロッケ、豚しょうが焼き、エビフライ、エビかつなどもある。いずれは食べたいとずっと思っていながらも、とんかつの誘惑を断ち切ることは至難の業だ。

 

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「おくだの赤だしには、麻薬が入っとるんや」

かつて部活の先輩はこう語った。週に何度も通うおくだジャンキーであったその先輩は、おくだで豚ブロックも買って帰っていた。おくだを教えてもらってまもなく、自分もおくだの中毒者となった。実際のところ麻薬は入っていないのは言うまでもないが、とんかつが出てくる前に啜るあの赤だしは、やたらにうまい。

 

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さて、9月から国外フィールドワークに行く。行きたくない気持ちはでかいが、これをやらねば博士はない。

調査がうまくいったらおくだでジャンボロースかつ定食を注文しよう。うまくいかなくても、無事に戻ってきたら食べに行こう。胃もたれしてもいい。生きる喜び、それはきっととんかつの形をしている。

 

 

 

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*1:「退屈をかくも素直に愛しゐし日々は還らず さよなら京都」/栗木京子

*2:

とんかつ処おくだ (@tonkatsuokuda2) • Instagram photos and videos