もちもちした犬

おもに日記のようなものを書きます。

雑記

自分が所属している分野の博士後期は、3年で出られることはまずない(例外的に出る人もいるが、国費留学の外国人学生などである)。

もともとの内規では、査読論文2本以上、フィールドワーク1年以上という縛り、加えて博論本の出版も義務付けられている。研究科側の規定は査読論文1本あればいいらしいが、それよりもハードルを上げているうえに、近年では「学振PDに通るには査読論文4本はないと厳しい」という説明まで加わる。自分は1本論文があるが、これは修士のフィールドなのでカウントされない。

修士課程では国内で調査したが、博士は海外で調査しようという目算であった。変更しなければよかったのだが、嫌なことがあったので地域を変える必要性を感じたのだった。また、海外で調査してこそ人類学だ、というバカな気持ちもあった。しかし、コロナで渡航にも結構な遅れが生じることになる。

2019年にはマリアナ諸島で短期間の調査をおこなうも、金のなさでフィールド候補から外す。その後最終的に台湾に変更する。この時期くらいから中国語を独学したりしなかったりしている。

2020年に、まず1回目の渡航中止に遭う。2021年には渡航の延期が発生、2022年にようやく渡航ができた。しかしまあ、直前になって渡航許可が出たのもあり、死ぬほど厳しいスケジュールとバカみたいな高い金を出すはめになりその次の月には貯金が10万を切った。

現時点で博士後期に入って4年目、学年的にはD2である。日本でもたもたしているうちに、京大の次世代の給付を受けたが、2021年度にこの期間も切れた(この制度は相当にクソで、あらかじめ書いていなかった規約を出してきたり、約束を反故にしたりと、それはそれは不愉快な思いをしたのだった。支援とは名ばかりで人の心がない。全員くたばればいい)。学振も落ち、もう出せない。

交換留学で渡航したのだが、台湾の清華大学を選んだのは、そもそも調査しようと思っていた廟や場所に近いと判断していたからだ。読みは外れた。その廟はコロナで活動を中止している。加えて、この大学は立地も悪ければ図書館も充実していない。おまけに「交換留学」を利用したせいで留学生の集まりにつきあわせられる。チューターみたいなことを担当する学生からは、「清大は台湾では2番目の大学で」「国際的にも評価が高くて」「金があって」と毎度毎度自慢ばかりされる。いい加減うんざりしているので、全部京大のほうが上なんだが?と言ってやりたくもなる。愛校心ではない。大学施設の不備で苦労しているところに、金持ちアピールされるのが腹立たしいのだ。それは工学系の話だろ、寮は、そして人文系のあのざまはなんなんだよ。こんなしょぼいと事前にわからなかったのは、自分のリサーチ不足だけのせいではないはずだ。

人類学のことが好きだったのは、何かの間違いだったのかもしれない。フィールドワークは、そもそも楽しくない。苦労すること、恥をかくこと、嫌な思いをすることがほとんどだ。これは場所がどこであってもそうだ。自分はしゃべるのが大好き!とかどんどん人と知り合うのが好き!というタイプではない。観察したり、聞き役に徹する方が得意だし、理論のほうが好きなタイプだ。

もともと人類学のフィールドワークは修行のような性質がある。それでも、その先になにかがあるはずだと思えるからどうにかやれるものだ。ただし、今の私にはなにもない。苦しくならないはずがない。昔の人とは状況が全然違うのだ。院生の数ばかり増えて、子供は減り大学も減っていく。自分は親に頼ることもしていないし、バイトで全部カバーしてきた。しかしそのバイトも渡航で辞めることになった。学振貰いながら実家に住み、ほかの助成金も貰い、バイトもしているという東京住みの院生のツイートを見て憤死しかけた。

あてもなく渡航したが、この交換留学を終えたところでまたどうせ調査にいかないといけない。金もないのにフィールドに入り、嫌な思いをして思うようにいかない、これを繰り返す。日本に帰ってもゼミで叩かれ、論文を書いても査読リプライで叩かれ、非常勤もコネがないと回してもらえず、40近くなっても非正規、任期付き。博論予備ゼミもなんであんな圧迫するのか理解できない。人を潰すための分野なのか?人の人生をなんだと思っているんだろう。

京大に10年通ったのに、全部において佐世保工業を出て地元の造船所で働いている人間に負ける。年収だの学歴だのをどうこう言うのは「社会学的に正しくない」のもわかるし、冷静な自分ならそういうことは言わない。しかし、学者先生のいういわゆる「新自由主義的」な価値観を内面化せざるをえない状況があるのだ。食うに困ってる人間が面白いことを探す余裕があるわけがない。貧すれば鈍するのだ。運が良ければ40までには常勤になれる、運がなかったら一生バイトみたいな収入で生きていけ。こんな分野つぶした方が後世のためではないだろうか。うすらサヨクっぽいことを言うくせに弱者に厳しいのは誰だ。生存バイアスで「私は学振は取れなかったけど今では常勤です」とツイートするバカ。自分みたいな貧農のガキは学者になろうとしてはいけなかったのだろう。

修士卒でどっかの会社に入って「人類学をビジネスに活用」うんぬんと講釈垂れている人間のほうが、すべてにおいて余裕をもって人類学をお勉強できるだろう。アホはおれだ。博士なんか行くのはバカなのだ。こんな分野と心中してたまるかよ。と言いつつまだ調査をしにいくのである。